暗号資産(仮想通貨)の課税方式について、これまでの「総合課税」から、株式等と同様の「申告分離課税」に変更される可能性が高まっています。暗号資産の分離課税については、以前から業界団体等による税制改正要望が出されていましたが、令和8年度税制改正により、制度化に向けて大きく前進しました。ただし、2026年6月19日現在、暗号資産に関する金商法改正や、その後の政令・内閣府令・通達等の詳細まではまだ確定していません。そのため、本記事では現時点で公表されている情報をもとに、暗号資産取引に係る損益計算や投資家への影響について考察します。暗号資産の分離課税はいつから始まるのか適用開始は金商法改正の施行時期に左右される現時点の整理では、金融商品取引法等の改正を前提として、一定の暗号資産取引について申告分離課税が導入される方向です。適用開始時期については、「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日以後」とされています。2028年1月1日開始の可能性と注意点そのため、仮に金商法改正法が2027年中に施行された場合には、2028年1月1日以後に行う取引から分離課税の対象になる可能性があります。ただし、実際の適用開始日は金商法改正法の施行時期に左右されるため、2026年6月19日時点では、2028年1月1日開始が正式に確定しているわけではありません。現時点で想定されている制度の概要現時点で分離課税の対象として想定されているのは、国内の「暗号資産取引業者」を通じて行われる、特定暗号資産の譲渡等です。ここでいう「暗号資産取引業者」とは、現在の「暗号資産交換業者」が金商法対応後に名称変更されるものと考えられます。また、「特定暗号資産」とは、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等を指すものとされており、国内の暗号資産取引業者が取り扱うすべての暗号資産が当然に対象になるとは限りません。大きく整理すると、以下のような方向で制度設計が進んでいると考えられます。国内の暗号資産取引業者を通じた特定暗号資産の売却が対象税率は所得税15%、住民税5%の合計20%復興特別所得税を含めると、実務上は20.315%と説明される可能性が高い特定暗号資産の譲渡等で生じた損失は、一定の要件のもとで3年間の繰越控除が可能特定暗号資産に係る暗号資産デリバティブ取引も、先物取引に係る課税の特例の対象に加えられる方向一定の暗号資産ETFについても、分離課税の対象に含める方向「源泉分離課税」ではなく「申告分離課税」が中心源泉分離課税と申告分離課税の違い分離課税には、大きく分けて「源泉分離課税」と「申告分離課税」があります。源泉分離課税とは、所得の支払者が所得税を源泉徴収し、それだけで所得税の納税が完結する制度です。一方、申告分離課税とは、一定の所得について、給与所得や事業所得など他の所得と合算せず、分離して税額を計算し、原則として確定申告により納税する制度です。暗号資産の確定申告や損益計算は引き続き必要か?今回の暗号資産税制改正で中心となっているのは、源泉分離課税ではなく、申告分離課税です。株式等の取引では、特定口座・源泉徴収ありを選択することで、証券会社が損益計算や源泉徴収を行い、確定申告が不要になるケースがあります。しかし、現時点で暗号資産について同様の特定口座制度が導入されるかどうかは明確ではありません。そのため、少なくとも現時点では、暗号資産取引については「申告分離課税になるが、確定申告や損益計算が引き続き必要になる可能性が高い」と考えておくのがよいでしょう。分離課税の対象になる取引・対象外となる取引分離課税の対象になる可能性が高いもの現時点の情報をもとにすると、分離課税の対象になる可能性が高いのは、以下のような取引です。国内の暗号資産取引業者で行う特定暗号資産の現物売却国内の暗号資産取引業者を通じた他の投資家への売却特定暗号資産に係る暗号資産デリバティブ取引一定の暗号資産ETFに係る取引ポイントは、「暗号資産であれば何でも分離課税になる」というわけではない点です。あくまで、国内の暗号資産取引業者が取り扱う特定暗号資産に係る取引が中心になると考えられます。分離課税の対象外になる可能性があるもの一方で、以下のような取引については、現時点の制度案からは分離課税の対象外になる可能性があります。海外取引所での暗号資産売買DEXでの取引個人ウォレットを利用したDeFi取引ステーキング報酬レンディング収益流動性提供による報酬マイニング報酬エアドロップやキャンペーン報酬国内の暗号資産取引業者で取り扱いがない銘柄の取引特定暗号資産に該当しない暗号資産の取引これらについては、引き続き総合課税の対象となる可能性があります。特に、ステーキングやレンディング、DeFi、エアドロップなどについては、取得時点で所得が発生するケースが多いため、単純に「暗号資産だから分離課税になる」と考えるのは危険です。すべての暗号資産取引が対象になるわけではない以前は、暗号資産の分離課税について、以下の2つの可能性が考えられていました。1つ目は、国内取引所、海外取引所、ウォレット、DeFiなどを問わず、すべての暗号資産取引が申告分離課税の対象になるパターンです。2つ目は、国内の決まった取引所・サービスで行われた一定の取引のみが申告分離課税の対象になるパターンです。現時点の制度設計は、後者に近いものとなっています。つまり、国内外を問わずすべての暗号資産取引が一律に分離課税になるのではなく、国内の暗号資産取引業者を通じた特定暗号資産の譲渡等を中心に、分離課税の対象が設計されていると考えられます。国内取引所・海外取引所・ウォレットで課税方式はどう変わるのか国内取引所と海外取引所で課税方式が分かれる可能性がある今後の大きな論点は、国内の暗号資産取引業者で行う取引と、それ以外の取引で課税方式が分かれる可能性がある点です。たとえば、国内の暗号資産取引業者でビットコインを売却した場合、そのビットコインが特定暗号資産に該当すれば、分離課税の対象になる可能性があります。一方で、海外取引所でビットコインを売却した場合には、同じビットコインの売却であっても、総合課税の対象として扱われる可能性があります。この場合、同じ暗号資産であっても、「どこで売却したか」によって課税方式が変わることになります。暗号資産の移動時に利確は発生するのか?以前は、国内取引所と海外取引所、またはウォレットとの間で暗号資産を移動した場合に、その時点で利確とみなされる可能性があるのではないかという論点がありました。しかし、現時点の情報を見る限り、単に国内取引所から海外取引所へ送付しただけ、またはウォレットへ移動しただけで、その時点で分離課税または総合課税の利確が発生するという整理にはなっていないように見えます。「どこで売却したか」が重要になる重要なのは、暗号資産をどこに保管していたかよりも、最終的にどの取引業者を通じて、どのような譲渡等を行ったかという点になる可能性があります。そのため、分離課税の恩恵を受けるために、施行前にあわてて海外取引所やウォレットから国内取引所へ暗号資産を移動する必要があるとは、現時点では言い切れません。ただし、今後の法律、政令、内閣府令、通達等で具体的な取扱いが明らかになるまでは、確定的な判断は避けるべきです。取引パターンごとの分離課税・総合課税の考え方現時点で想定される取引パターンごとの取扱いを整理すると、以下のようになります。国内の暗号資産取引業者で売却した場合国内の暗号資産取引業者で特定暗号資産を売却した場合、その売却益または売却損は申告分離課税の対象になる可能性があります。たとえば、国内取引所でBTCを売却した場合、そのBTCが特定暗号資産に該当すれば、分離課税の対象になると考えられます。海外取引所で売却した場合海外取引所で暗号資産を売却した場合には、国内の暗号資産取引業者を通じた取引ではないため、分離課税の対象外となり、引き続き総合課税の対象となる可能性があります。国内取引所で取得し、海外取引所で売却した場合国内取引所で取得した暗号資産を海外取引所へ移動し、その後海外取引所で売却した場合、売却自体は海外取引所で行われるため、総合課税の対象になる可能性があります。この場合、取得場所が国内取引所であっても、売却場所が海外取引所であれば分離課税の対象にならない可能性がある点に注意が必要です。海外取引所で取得し、国内取引所で売却した場合海外取引所で取得した暗号資産を国内の暗号資産取引業者へ移動し、その後国内で売却した場合、売却時点の取引が国内の暗号資産取引業者を通じた特定暗号資産の譲渡等であれば、分離課税の対象になる可能性があります。この点は、過去から保有していた暗号資産についても分離課税の対象になり得るという意味で、投資家にとっては大きなポイントです。ウォレットに保管している暗号資産を売却した場合個人ウォレットに保管しているだけでは、通常は損益は発生しません。その後、国内の暗号資産取引業者に送付して売却した場合には、分離課税の対象になる可能性があります。一方で、DEXや海外取引所で売却した場合には、総合課税の対象になる可能性があります。DeFiで取引した場合DeFi上で暗号資産を交換した場合や、流動性提供、ステーキング、レンディング等を行った場合には、国内の暗号資産取引業者を通じた特定暗号資産の譲渡等には該当しない可能性が高いと考えられます。そのため、DeFi関連の取引については、引き続き総合課税の対象として整理される可能性があります。分離課税導入後の損益計算で注意すべきポイント損益通算の範囲に注意が必要今回の改正で重要なのは、税率が20%になることだけではありません。損益通算の範囲が、これまでとは変わる可能性がある点にも注意が必要です。現行制度では、暗号資産取引による所得は原則として雑所得に区分され、暗号資産取引全体の中で利益と損失を通算して計算するケースが一般的です。しかし、分離課税が導入されると、分離課税の対象となる取引と、総合課税の対象として残る取引が分かれる可能性があります。たとえば、国内の暗号資産取引業者で行った特定暗号資産の売却益は分離課税の対象になる一方、海外取引所やDeFiで発生した損失は総合課税の対象となる可能性があります。この場合、国内取引所で発生した利益と、海外取引所やDeFiで発生した損失を自由に損益通算できない可能性があります。また、現物取引、デリバティブ取引、ステーキング報酬、レンディング収益、DeFi取引などが、それぞれ異なる課税区分で扱われる可能性もあります。そのため、これまでのように「暗号資産全体で損益をまとめて計算する」という感覚ではなく、取引の種類ごと、課税区分ごとに損益を整理する必要性が高まると考えられます。取得原価の管理は引き続き重要分離課税が導入されたとしても、暗号資産の取得原価の管理が不要になるわけではありません。むしろ、分離課税の対象となる取引と、総合課税の対象となる取引が混在する場合、これまで以上に正確な取得原価管理が重要になります。特に、以下のようなケースでは注意が必要です。過去に海外取引所で取得した暗号資産を国内取引所で売却するケースウォレットで長期間保管していた暗号資産を国内取引所で売却するケースステーキング報酬として受け取った暗号資産を後日売却するケースレンディング報酬として受け取った暗号資産を後日売却するケースDeFiで取得した暗号資産を国内取引所で売却するケースステーキング・レンディング報酬は受取時と売却時を分けて管理する特に、ステーキング報酬やレンディング収益として受け取った暗号資産は、受け取った時点で所得が発生し、その時点の時価が取得価額になると考えられます。その後、その暗号資産を国内の暗号資産取引業者で売却した場合には、受取時の取得価額をもとに売却損益を計算する必要が出てくる可能性があります。つまり、報酬を受け取った時点の所得計算と、その後に売却した時点の譲渡損益計算を、分けて管理する必要があるということです。また、ステーキング報酬は総合課税となり、売却による損益は分離課税となり損益通算ができない可能性があります。投資家は何を準備すべきか現時点で投資家が準備しておくべきことは、特定の取引所へあわてて資産を移動することではなく、過去から現在までの取引履歴と取得原価を正確に整理しておくことです。具体的には、以下のような準備が重要です。国内取引所、海外取引所、ウォレット、DeFiの取引履歴を保存しておく暗号資産ごとの取得数量、取得価額、取得日を整理しておくステーキング、レンディング、エアドロップ等の報酬履歴を保存しておくウォレット間移動について、送付元・送付先・日時・数量を記録しておく国内取引所で売却した取引と、海外取引所・DeFiで行った取引を区分できるようにしておく今後、対象となる特定暗号資産や取引業者の範囲を確認する分離課税が導入されれば、税率面では投資家にとって有利になる可能性があります。一方で、課税区分が分かれることで、損益計算はこれまで以上に複雑になる可能性があります。そのため、今後は「どの暗号資産を保有しているか」だけでなく、「どこで取得し、どこで売却し、どのような所得として発生したものか」を整理しておくことが重要になります。まとめ暗号資産の税制は、総合課税から申告分離課税へ移行する方向で大きく進んでいます。現時点では、国内の暗号資産取引業者を通じて行われる特定暗号資産の譲渡等について、20%の申告分離課税の対象とする方向です。また、一定の要件のもとで3年間の損失繰越控除も認められる見込みです。一方で、すべての暗号資産取引が一律に分離課税になるわけではありません。海外取引所、DEX、DeFi、ステーキング、レンディング、マイニング、エアドロップなどについては、引き続き総合課税の対象となる可能性があります。その結果、今後は「暗号資産全体で一つの損益計算をする」というよりも、分離課税の対象となる取引と、総合課税の対象となる取引を区分して管理する必要が出てくる可能性があります。税率が下がることは投資家にとって大きなメリットですが、損益通算の範囲や取得原価の管理、取引所ごとの取扱いには十分な注意が必要です。本記事は、2026年6月19日時点で公表されている情報をもとに、筆者が独自に検討した内容です。今後、法律、政令、内閣府令、通達等により、実際の取扱いが変更される可能性があります。新たな情報が公表され次第、本記事の内容も随時アップデートしていきます。